最近、漢方薬が流行ってきたようです。(結構前から??)
患者さんや私の友人からも「○○飲んだら、調子がいい♪」「風邪の時は、いつも○○湯を飲んでるよ」と嬉しい声を聞きます。
私は鍼灸師ですので、漢方薬の処方は(当たり前ですが!)できませんけど、漢方の勉強は続けさせていただいています。
なんで鍼灸やってる人が漢方勉強してんの? といわれそうですが、鍼灸と漢方は「手段が違う」だけで、基本的な考え方が同じです。
漢方における病気のメカニズムを学ぶことで、手段を鍼灸に置き換えると、その考え方が非常によく役立ちます。
(逆に漢方の先生は「鍼灸の考え方を勉強しておくと漢方診療に役立つ」とおっしゃいます。
・・・とある医学書にも「漢方やるんなら鍼灸の勉強もしておきなさい」って書いてあったりします☆)
最近では、自分で薬局・ドラッグストアで漢方薬を指定して買い、セルフメディケーションをやってるツワモノもいらっしゃいますね。
漢方・東洋医学が国民的に親しまれていくのはとても良いことなんですが、中には「おおい、ちょっと待って!」と止めたくなる方もお見掛けします。
よくあるのが、「風邪には葛根湯」
というわけで、葛根湯から、私が忘れないための備忘録( ..)φメモメモ…
東洋医学の世界では、俗にいう「風邪」をものすご~く細かく分類しています。
その中で、初期の風邪に使われる漢方薬の一つが、葛根湯です。
他にも風邪に使う漢方薬は山のようにあるのに、どうして「風邪には葛根湯」が定着したのでしょう??
これは、葛根湯の中身を分解してみるとヒントがありそうです。
葛根湯の組み合わせは、
葛根 芍藥
麻黄 桂枝 生姜
甘草 大棗
からなります。
薬の名前にもなっている、葛根(かっこん)とは「クズの根っこ」のこと。
くず湯や、葛切り、くずもち、葛桜などに使われる葛です。
葛根は、「肌がこわ張っている」のを潤して緩める作用を持ちます。
この作用を利用して、風邪を引いて首肩周りがカチカチにこわ張ってしまっているのを緩めます。
首肩周りを緩めたところで、麻黄・桂枝で発汗をさせ、生姜で温めることで発汗を更に強化。
生姜はショウガのこと。
汗をかかせて風邪を治す、ということです。
生姜は少しキツイ薬なので、クッション役を甘草が果たし、大棗は胃腸を活性化します。
(東洋医学の世界では、胃腸と肌というのが綿密に関連していると考えます)
ここで、葛根湯の出典元の医学書を読むと、
太陽病、項背強几几、無汗悪風、葛根湯主之。
”太陽の病、項背強ばること几几(きんきん)として、汗無く悪風(おふう)するは、葛根湯これを主(つかさど)る。”
(『傷寒雑病論』張仲景著(2-3世紀頃)
無汗・悪風という言葉が出てきました。
悪風というのは、「風に当たるとさむけがする」という程度の寒気のこと。
要するに、葛根湯とは、、、
風に当たるとさむけがして
首肩が凝っている
それでいて汗が出ない
、、、という風邪に使う薬ということです。
先ほど葛根のところで出てきた「肌がこわばって」というのと、麻黄・桂枝が入っているのが重要で、
漢方における初期風邪は、風邪が「皮膚」にどういう悪さをしているかで対応を変えます。
次回に述べますが、
「皮膚」にペタッと張り付いて汗が出ずにいる風邪は、麻黄が主役の薬が治し、
「皮膚」が風邪で弱らされて汗がダラダラ出ているのは、桂枝が主役の薬が治します。
両方入っている、ということで「境界線あたりで効いてくれる」というイメージがついたのかどうか知りませんが、
「風邪には葛根湯」というイメージが出来上がってしまいました。
しかし本来の葛根湯は、「首肩周りの肌がカチカチ」で「汗が無い」と効かないはずです。
風邪だったら全部葛根湯で効くだろう、と考えなしに飲むと怖いことになりそうです。
ちなみに鍼灸の臨床では、首肩周りのお肌の状態を丁寧に観察したり、また首肩と連なる経絡のツボをチェックして、「葛根湯タイプの風邪かな?」と観察したりします。
首肩周りの経絡を緩めて「発汗」を促すようなツボを選ぶと、じんわり汗をかいたりしてくれますね。
こうした辺り、とても勉強になります。
(他にも、入っている生薬を調べていくと、凄い勉強になるんですが、長くなるのでこの辺で。)
次回は、葛根湯にも入っていた麻黄が主役の漢方、麻黄湯について。
同じく「無汗」タイプの風邪です。