前回は馴染み深い漢方、葛根湯について少し書きましたが、今回は葛根湯にも含まれる麻黄(マオウ)。
この麻黄が主役の漢方で、近年、病院などでもインフルエンザに効ありといわれて処方されることが多くなったらしい、麻黄湯について。
前回と同じく、後漢時代に記された『傷寒論雑病論』(張仲景著)から引っ張ってきます。
太陽病、頭痛発熱、身疼腰痛、骨節疼痛、悪風無汗而喘者、麻黄湯主之。
(太陽の病、頭痛発熱して、身疼き腰痛み、骨節疼痛し、悪風し無汗、しかも喘するもの、麻黄湯これを主る。)
*前回でも出てきましたが、太陽の病、というのは風邪の「位置」と思ってください。こうした表現は経絡の表現と重なり、私たち鍼灸師には馴染み深い表現です。ここでは身体の一番外側に風邪がいる、と思ってください。
頭痛・発熱というあたり、実に風邪らしい。
寒気がして、しかも喘=セキする人に、と書かれています。
さらに身体や腰が痛くて、節々が痛い、とまで書いています。
風邪を引くと体中の関節が痛くなるという方、結構いるんじゃないでしょうか。
ちょっとここで、麻黄湯を分解してみます。
麻黄
桂枝
甘草
杏仁
、、、以上 、とシンプル。
麻黄は、葛根湯でも働いていた通り、発汗を促す生薬です。
麻黄、一名龍沙。味は苦温。川谷に生ず。中風、傷寒、頭痛、温瘧を治す。表を発し、汗出づ、邪熱気を去り、咳逆上気を止め、寒熱を除き・・・(『神農本草経』)
とされ、とにかく汗を出して色々治す薬と伺えます。
味は苦温、というのは、とりあえず温める作用を持つのだな、としておきましょう。
「中風」とは脳卒中のことではなく、風邪のこと。「傷寒」も同じく風邪のことです。
中風と傷寒では風邪の種類が変わり、今回の主役、麻黄湯は特に「傷寒」の風邪を治すのによく使われます。
では、傷寒の風邪とはどんな風邪か?
先に挙げた『傷寒雑病論』では、
太陽病、或已発熱、或未発熱、必惡寒、體痛、嘔逆、脉陰陽倶緊者、名爲傷寒。
(太陽の病、或いは已発熱、或いは未だ発熱せず、必ず悪寒し、體痛み、嘔逆し、脈陰陽倶に緊なる者、名づけて傷寒と為す。)
つまり発熱しててもしてなくてもいいけど、必ず悪寒=じっとしてても寒気がする、身体の節々が痛い、そして咳がある。
これは傷寒という風邪なので、麻黄湯がよろしい、ということです。
ここでいう悪寒は、かなり強烈な寒気であることが多いようです。
実際に、「こりゃ麻黄湯タイプの風邪ひいたかな」と思しき患者さんの肌を触らせていただくと、「ピンッ」として緊張感マックスという印象を受けます。
汗をかかない、というのは葛根湯と共通しますが、異なるのはセキがあるかないか、ですね。
麻黄以外で、入っている、
杏仁(キョウニン)は、
治咳逆上気(『神農本草経』)
といって、上に突き上げるような咳を下して、結果、肺機能を助けてくれます。
さて、前回の葛根湯にも入っていましたけれど、麻黄湯には桂枝も入っています。
これはシナモンのことです。
漢方の世界で、絶対の欠かすことのできないほど重要な生薬である桂枝が主役の桂枝湯は、なぜかあまり一般的ではないみたいです。
ということで、いろいろ端折りましたが、次回は、桂枝湯について。