現代日本人に馴染み深い漢方と言えば、葛根湯に小柴胡湯、そしてこの小青竜湯あたりがあげられるのではないでしょうか?
喘息の方が、漢方を希望するとかなりの確率で小青竜湯が出されるらしいです。
(多分、私も子供のころ飲んだと思う。)
この小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、本来はある種の風邪に使う薬です。
分解してみると、前々回で出てきた麻黄湯の変化球的な組み合わせをしています。
麻黄
桂枝
甘草
ここまで麻黄湯と一緒。ここから、
(杏仁)が抜けて、
芍藥
細辛
乾姜
五味子
半夏
だんだん、生薬の数が増えてきました。
もともとは、
傷寒、表不解、心下有水気、乾嘔、発熱而欬、小青竜湯主之。(『傷寒雑病論』張仲景(2-3世紀))
“傷寒、表解けず、心下に水気あり、乾嘔し、発熱して欬するは、小青竜湯之を主る。”
とあるように、傷寒=風邪の一種が、なかなか治らない時の治療薬です。
ここで、「心下有水気」とありますが、心下とはみぞおち辺りのこと。
みぞおち辺りに水があるような感じがする。
そして乾嘔とは、「からえずき」のこと。
専門書だと、吐物を伴わない嘔吐と表現したりします(「中医基本用語辞典」)
そして熱があり、セキもある。
注意:東洋医学でいう発熱、とは必ずしも体温計で37度以上になる、とは限りません!
「心下有水気、乾嘔」あたり、喘息持ちの方にはピンとくる感覚かもしれません。
こうしたところから、「喘息治療に使う漢方=小青竜湯」という定番ができたのかな?
実際に、小青竜湯を飲んで喘息が寛解した方が多くいらっしゃったから、ここまで普及したのだとは思います。
しかしながら、小青竜湯は喘息の特効薬ではありません。
本来は、
麻黄・桂枝を使って、風邪を汗で追い出しながら、
(※傷寒、とありますよね。傷寒=初期なら麻黄湯で発汗させて治す、無汗タイプの風邪のはず。)
乾姜・細辛の辛温(味が辛く、温める作用を持つ)の作用で、停滞している水をさばき、
(※東洋医学では、体内の水を動かすのに熱エネルギー=「陽気」が必要と考えます)
半夏の降逆(昇ってくる気を降ろす)・化痰(痰の水を抜いて消す)の作用で、胸にたまった痰を下す、
…というお薬です。
麻黄や桂枝もそうですが、味が辛い、とされる薬がビッシリ入っています。
ついでに半夏は、「小毒」の薬とされ、キツイお薬。
こうした生薬は、使いすぎると体力を消耗する(正気を消耗する、といいます)ため、
甘草で気を補い、特に胃を守り、
味が酸の五味子で、肺と、肺と共に呼吸をつかさどっているとされる腎臓を守り、
(=酸っぱい味は、主に「陰」を引き締める、と考えられている)
同じく味酸・苦の芍藥で、この作用を助け、
(=苦味、もまた引き締めるに似た「固め」て要らないもの出す方に働くと考える。)
また芍藥と桂枝が一緒になることで、発汗過多を防ぎ(営衛調和)、
先にあげた辛い薬によって、体力が削られすぎないようにフォローしています。
フォローしている、といっても小青竜湯は、強めの漢方なので長期服用には適さないとも言われますし、体力が弱っているために起こった喘息や、あるいは体力が消耗している方には、向かないものです。
(日本のエキス剤は、少なめの配合になっているようなので、そこまで大惨事になることはあまりないと思いますけど、私が学生の頃に勉強させて頂いていたあるドクターは、「日本のエキス剤は、分量が少ないから、治る時はユックリなおる。でも、悪化するときもユックリ悪化する」と、冗談とも本気ともとれる口調で怖い話をしていました…。)
もちろん、この状態がピッタリ合いさえすれば、応用範囲がもともと広い薬だそうなので、当然、喘息を治すのにも使えるわけですが、「合わなかった」ら、注意したいところです。
(小青竜湯飲んだら、かえって喘息が酷くなった、という方もいるそうですが、それは合ってなかったのかも)
鍼灸の現場だと、小青竜湯タイプの風邪や、喘息、その他、いろんな病気が考えられますけど、
麻黄・桂枝が入っているあたりから、背中の状態を意識するとともに、
「心下有水気」なのですから、みぞおち辺りを注意深く触ります。
一見、慢性病にも見える所見でも、「ひょっとして、最近、風邪ひきました??」と伺うと、実は風邪のせいでこじれてしまっていた、というケースも少なくありません。
ここまで、葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・小青竜湯と、もともと風邪を治すのに使っていた漢方を見てきましたが、そもそもの話、「東洋医学でいう風邪って何??」という話しを少ししてみます。
風邪が肌だの皮膚だのに入るとか、汗で追い出すとか、よくよく聞いてみれば、現代医学の常識からしたら「?」ですもんね(^_^;)