1~4まで、葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・小青竜湯と見てきましたが、その中でよく、
「風邪が肌に入って」とか「首筋に風邪が入って」とか「汗で風邪を出す」とかいう表現をしていたと思いますが、現代医学の感覚からすると「?」な表現です。
現代医学では、風邪とはウイルスに感染して起こる病気であり、感染ルートは口や鼻のはずです。
肌や皮膚からウイルスが侵入するんかい?? とか言われそうですね。
あくまで東洋医学独自の世界観では、という前提で話しを進めていきます。
風邪や感染症の多く、また季節や気象(気温や気圧)によって発症する病の多くは、
東洋医学の世界では「六淫の邪(りくいんのじゃ)」が肌や口鼻から侵入して起こす、と考えます。
この六淫の邪、というのが、
「 風 邪 (ふうじゃ)」
「 寒 邪 (かんじゃ)」
「 暑 邪 (しょじゃ)」
「 湿 邪 (しつじゃ)」
「 燥 邪 (そうじゃ)」
「 火 邪 (かじゃ)」
と呼び、風・寒・暑・湿・燥・火の6つの性質を帯びた気象変化が大きすぎる時に、人体に悪影響を及ぼし「邪なものとなる」つまり「邪気」となる、とされます。
それぞれ「気」を省略して、風邪・寒邪と呼ぶわけです。
(※邪なものになる前は、正常なものであったわけです。それぞれの気象変化は本来なら、地球上の生命を育むのに必要な気象であって、大きすぎたり季節外れにやってきたりしたときに「邪気」になるもので、六淫は「六気」とも言って本当なら必要なものなわけです。)
前回までに出てきた、葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・小青竜湯などは、主に「風邪」と「寒邪」がセットになった「風寒邪」により引いた風邪を治療する薬です。
(他にも応用は効くんですよ。念のため。)
漢方と鍼灸3 桂枝湯 の回でも少し触れましたが、風邪というのは書いて字の如く、「風」です。
古代の人々は自然の気象をよく観察し、季節により「風が吹いてくる向き」と「風の温度・湿度」が違うことを発見していました。
季節ごとに吹く風が、例年よりも勢いが強かったり、暑すぎたり寒すぎたり、湿気りすぎたり乾燥しすぎたり、更に季節外れの風(夏に寒い風、冬に暖かい風など)が吹いた時、感染症が流行することにも気が付いたのでしょう。
その風。
風邪(ふうじゃ)となるときは、人体の腠理(=毛穴)を開いて侵入する、とされます。
(開泄といいます)
さらに「風邪は百病の長」と呼ばれ、風以外の寒・暑・湿・燥などの邪気を伴ってやってくることがほとんど。
風邪が腠理(毛穴)をこじ開けて、一緒にやってきた寒・暑・湿・燥の邪気がお邪魔しますをして、発病に至ります。
ここで、腠理(毛穴)をこじ開けて、という表現をしましたが、毛穴が開くとどうなりますか?
汗が出ますね。
ここで、桂枝湯の「汗出」というところに繋がっていきます。
(人体の方で出そうと思って出す汗ではないので、「じんわり」としか汗は出ない)
もちろん人体側もだまって、入られるままでいるわけではなく、腠理を閉めて、肌に乗り込んできた風邪を「あっちいけ!」と戦います。
この皮膚表面で戦い、また腠理の開け閉めをつかさどっているのが、「衛気」(えき)と呼ばれるもの。
(※この「衛気」という概念が、鍼灸治療ではとんでもなく重要になってきます。)
桂枝湯のパターンでは、風邪によって衛気が一時、押しやられて、
腠理も丁度、強風が吹いた時にドアが「バーン!」と開いてしまうように、開けられてしまいます。
衛気が押しやられて「虚ろ」な状態になるので、この状態を「衛気虚」(えききょ)ともいい、桂枝湯とは誤解を恐れずに言うなら、「衛気虚」を治療する薬とも言えます。
なので、風邪以外の要因で「衛気虚」になった人にも、条件がそろえば桂枝湯で改善することはよくあると思います。
(あくまで経験少ない私個人の感想ですが、、、風の強い室蘭で開業させていただいてから、「なるほど、これが衛気虚か…」という人を見させて頂く機会が、内地で仕事していたころより多くなった気がします。もしかしたら室蘭の強風が「風邪(ふうじゃ)」となっているという面もあるのかもしれませんね)
・・・桂枝湯パターンの話だけで長くなってしまいましたが、かぜのほとんどは、「風邪+その他、寒・湿・燥・暑のどれか」の邪のミックスが「腠理」をこじ開けて侵入する、というパターンがほとんどです。
(火邪はどうしたのって? 火邪は他の邪気とちょっと毛色が違うんです。また別に書いてみようと思います)
腠理だけでなく口鼻から入ってくる、という邪気もありますが、、、
長くなったんで、続きは明日!