漢方と鍼灸14 小柴胡湯⑤

これまで小柴胡湯の話を書いてきましたが、ある時期、小柴胡湯が原因とされる副作用の死亡例が報告され、物議を醸した事があります。

 

それまで小柴胡湯は、(ここまで書いてきた中に登場した「証」の診断を経ない患者であっても…)慢性肝炎に有効とされ、一時期、日本で処方される漢方の約24%が小柴胡湯となるほど大量に処方されていた時代があったのですが、そんな最中、1996年に報道されたニュースは、慢性肝炎の治療に小柴胡湯を服用していた患者10名が、間質性肺炎により死亡した、というものでした。

 

その報道以前から、同じようなケースは既に報告されていたため、「漢方薬の安全神話が崩れた」などとも報道されました。

 

また死亡例は肝炎の治療薬であるインターフェロン製剤を併用している患者であったため、インターフェロン製剤との併用が禁止された経緯があります。

 

 

いったいどういういきさつで、「慢性肝炎=小柴胡湯」というパターンが決まってしまったのか、よくわかりませんが、いずれにせよ、「証」の診断プロセスを経ないで投与された例も数多かったのは事実のようです。

(この東洋医学独自の概念、「証」についても、また別に書いてみたいと思います。)

 

昭和中頃にドクター向けに書かれた漢方の医学書を見てみると、慢性肝炎の治療の「処方例の一つ」として小柴胡湯が挙げられていたので、実際に小柴胡湯を用いて成果も上げていたんだと思います。

 

「証」診断のプロセスを経て、インターフェロン製剤との併用を避けてもなお、間質性肺炎の副作用が果たしてゼロであったかは、私にはわかりませんし、今後も漢方製剤の危険性が研究されるのは、大事なことだと思います。

 

しかし、同じ東洋医学である鍼灸に携わる者としては、「東洋医学本来の視点に立たないまま処方されたために起こった」可能性が吟味されないまま、「よくわからないけど、漢方で肺炎を起こして死ぬことがあるらしい」という怖いイメージばかりが先行するのは、もったいないことだと思います。

 

 

ただ…忘れないでいただきたいのですが「漢方だから副作用なんてないでしょ」ということはないということ。

 

当たり前ですが、「効く」ということは「使い方を間違えたら毒になる」ということです。

 

そして当然、鍼灸とて同じです。

 

見立てが雑で、施術も荒くしてしまえば、効かないどころか悪化することだって、当然あり得ます。

 

だからこそ、少しでも正確な診断をするために、初診時には2時間以上の時間をかけて問診をしますし、毎回毎回、脈・舌・お腹や背中、手足のツボの観察は欠かしません。

 

万が一、選択をミスしたとわかっても、1カ所2カ所のみの鍼であれば、「いまはここではダメでしたか…」とすぐ修正が効きます。

 

 

ツボの刺激とて、漢方と同じです。

 

実際に、雑誌に載っているツボマッサージを自分でやったら具合が悪くなったという人を私も見たことがありますが、これは正しく見立てをしてもらわないまま、やみくもに漢方薬を飲んで具合を悪くしたのと一緒です。

 

残念なことに、「副作用がない万能薬」などという都合のいい医療は存在しません。

 

西洋医学も漢方も鍼灸も、その他、様々な医療も、「その道の人」と相談しながら、上手に付き合っていきたいですね。

 

 

次回は、同じ柴胡剤の大柴胡湯について書いてみたいと思います。

「大」=小柴胡湯の強化版・・・ではないようです(笑)

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