小柴胡湯について初めに書いた時にチラッと触れましたが、「柴胡(サイコ)」を用いる「柴胡剤」の一つに数えられる方剤です。
発達障害の方に処方した先生の本を、お借りして読ませていただいたことがあり、私も興味を持ちました。
(ご注意:発達障害=大柴胡湯、とは考えないでください。あくまで「証」が合えばヨロシ、ということを忘れてはいけません)
出典はいつものように、張仲景(2-3世紀)の『傷寒雑病論』から。
せっかくなので、小柴胡湯と構成を比較してみると、
◆小柴胡湯◆大柴胡湯◆
柴胡 柴胡
黄芩 黄芩
人参 芍藥
半夏 半夏
生姜 生姜
甘草 枳実
大棗 大棗
大黄
小柴胡湯と違う点は、人参・甘草という「補藥=主に胃腸にエネルギーを送る薬」が抜き取られて、
替わりに、枳実・大黄・芍藥が入っています。
枳実は、
枳実、味苦寒。生川澤。治大風在皮膚中如麻豆苦痒。除寒熱熱結。止利、長肌肉、利五蔵、益気軽身。(『神農本草経』)
…とあり、現代では「破気」(=停滞した気を思いっきり巡らせる)の力が強い生薬とされます。
大黄は、
大黄、味苦寒。生山谷。下瘀血血閉、寒熱。破癥瘕積聚、留飮宿食、蕩滌腸胃。推陳致新、通利水穀、調中化食、五蔵安和。(『神農本草経』)
…とあり、停滞した血を下し(駆瘀血)、胃腸に停滞しているものを蕩滌=洗い流す薬とされます。
ともすると、下剤と勘違いされやすい生薬なんですが、下剤的な側面はあくまで一側面、ということです。
柴胡と同じく、「推陳致新」の文言が出てきます。陳いものを捨てて新しく一新するんですって。
芍藥は、
芍藥、味苦平。生川谷。治邪気腹痛。除血痺、破堅積寒熱疝瘕、止通、利小便、益気。(『神農本草経』)
…とあります。
これまでも、桂枝湯や小青竜湯などで登場してきた芍藥ですが、芍藥にも「白芍」と「赤芍」の二種類があり、
白芍は、「味が酸・苦」で、酸味でもって引き締めることで血を補い、
赤芍は、「味が苦」で、深い部分(“血分”といいます)の熱を冷ます作用を持ちます。
※酸味が「引き締め」、苦味が「熱を冷ます(というより、締め出す、に近いのかな?)」という基本性質のようなものがあり、漢方はこの「五味=酸・苦・甘・辛・鹹(しおからい)」の性質ごとに、薬効を決めています。
五味については、また別に書きましょう。
白芍は、結果的に「血」を補う作用が強調されることが多いですし、実際に血不足の方に芍藥を用いた方剤で上手くいくことが多いらしいですが、それだけでなく、熱を冷ます作用も併せ持つらしいです。
いずれにせよ、「引き締める」「締め出す」作用で、「疝瘕=腹部で停滞が起こり、しこりのようになっているさま」を「破」る作用を持つようです。
鍼灸で芍藥的な作用を持ってこようとすると、「陰」にかかわるツボを選ぶことになりますが、単純に「補う」というだけでなく、「引き締める」「締め出す」という意識を持って鍼をしようとすると、また違った効かせ方になるのかもしれませんね。
話がそれました。
人参・甘草という「補う」の薬が抜けて、
枳実・大黄・(芍藥)という「巡らせる、削り取る」という薬が入ってくる。(芍藥はカッコつきですが)
ここまで見てくだけでも、小柴胡湯より強く「いらんものを削り取る」力が強い雰囲気ですね。
つづきますm(_ _)m