どういうわけか、私の友人や家族で処方された経験が多い方剤です。
そしてしばしば「おいしかった♪」という感想もついてきます(個人の感想です( ^)o(^ ))
バクモンドウトウ、と読みます。
出典は、いつもの張仲景(2-3世紀)先生が書かれた傷寒論・・・にもともと含まれていたという『金匱要略』という医学書です。
主に感染症に罹ってから死ぬ直前まで、何とかリカバーする流れを書いた『傷寒論』と
その他、様々な慢性雑病について記したのが『金匱要略』とされ、
この二つがセットで『傷寒雑病論』だったとされます。
張仲景先生の時代からすぐに散逸してしまったそうで、宋(960~1279年)の時代になり国の事業でやっとこさ再編されました。
ただ、大々的に再編されるより以前から、歴代の医家の医学書には『金匱要略』から引用したらしい文面があるらしく、「金匱」というタイトルからも、いかに大切なことを説いているか、というのが読み取れます。
(※“金匱石室”という箱? に封建君主の大切なものをしまっていた、という歴史書の記録がある)
私ごときがおいそれと語っていいものじゃないですし、本気で勉強したい方は、もっと立派な先輩が書かれた専門書を持っていると思いますけど、私自身の勉強にもなるので、少しでも分かりやすいようにボチボチ書いていきましょう。
傷寒論と同じく、やはり金匱要略も鍼灸師がより深く東洋医学を理解する上で、欠かせないものです。
(薬を処方するわけでなくとも、方剤の意味を学ぶことが、そのまま鍼灸に活きてくる)
もちろん鍼灸師じゃないんですけど、、、という方も「ふ~ん」という程度に読んで頂けると嬉しいです(*´▽`*)
さて、『金匱要略』から見ていきましょう。
問題の麦門冬湯ですが、「肺痿肺壅咳嗽上気病脈症治 第七」という扁に出てきます。
目がかすみそうなタイトルですが、要は「肺の病気」を治すぞ、という扁です。
その中で、
火逆上氣、咽喉不利、止逆下氣者、麦門冬湯主之。
と登場します。
このトップ「火逆」が本によって「大逆」となってたりするんですが、歴代医家が追試検討していく中で「火逆」と解釈する先生が増えていったっぽいので、ここでは「火逆」でいきます。
※ 明代(1368-1644年)の趙開美先生が記された本では、「大逆」になっているけど、時代が下った清代(1644-1912年)の『医宗金鑑』という医学書では「火逆」となっている。「大逆」と解釈して臨床に応用、成果を上げている先生もおそらくいると思います。
そもそも「肺痿・・・扁」に記されていることから、
火逆上氣、咽喉不利
という文面からは、
「肺の病気で、ひどい熱がのぼせて、セキが止まらない、のども乾いている」
というのが想像できます。
それを、
止逆下氣者
のぼせを下ろして、セキを止めるのが麦門冬湯だといってるわけです。
その麦門冬湯。
構成される生薬が、
麦門冬(バクモンドウ)
人参(ニンジン)
甘草(カンゾウ)
粳米(コウベイ)=うるち米のことです
大棗(ダイソウ)
以上、5つとなっています。
お米も立派な生薬になるんですね。
とはいえ主役は、まず麦門冬。
最古の薬学書、『神農本草経』にも記載があり、
麦門冬、味甘平。生山谷。
治心腹結氣、傷中傷飽、胃絡脉絶、羸痩短気。
久服軽身不老不飢。
・・・とあります。
心腹というのは「心窩部」のことで、みぞおち辺りが苦しい状態のこと。
酷いセキの時は、この辺りが苦しくなりますね。
「傷中」「胃絡脉絶」というのは、
「中」というのは、漢方用語で「中焦」(=胃を中心とした上腹部の内蔵)を指し、
「傷中=中を傷る(やぶる)」ですから、胃の辺りが何かしかの理由で弱っている。
更に「胃絡脉絶」=胃の機能が低下している。
・・・とあるように、消化器官の弱りが背景にあるときに良さそうです。
実際に、現代の漢方でも腸がカラッカラに乾いて便秘しているような時にも麦門冬を使います。
(増液湯)
総じて「潤す」作用が強く、肺と胃を中心に「潤わせる」ことでセキを止める方向に働く生薬のようです。
江戸末期から明治にかけて漢方存続に文字通り命を懸けた名医、浅田宗伯先生の著書には「…熱を瀉し(熱をもらす)、燥を潤し、咳を止め、気を下す。・・・麦門冬はひろく血分に走る。」(『古方薬議』)という一節があります。
血分に走る、、、というのは、ふか~いところに作用する、と捉えてください。
こうした作用があるあたりからでしょうか、結構きつい熱病のを治す漢方(清営湯・清宮湯)なんかにも使われたりしています。
次は、人参・甘草・粳米・大棗について書いていきます。
つづきます☆