漢方と鍼灸19 麦門冬湯②

少し前に室蘭市内で撮ったナナカマド。

もう秋だなぁ~・・・なんて言ってたら酷い暑さになりました(;゚Д゚)

※訂正:前回のブログで麦門冬湯を構成する生薬を、麦門冬・人参・粳米・甘草・大棗の5つ、と書きましたが、正しくはこれに「半夏」が加わります。訂正してお詫びします。

 

 

 

前回は麦門冬湯の主役、麦門冬のついて書きました。

 

今回は、一緒に入っている、

 

人参

粳米

大棗

甘草

 

・・・について勉強していきましょう。

 

先にザックリ言うと、この4つは「補薬」…元気を増す薬です。

 

人参からいきます。

 

人参といっても、カレーに入っているアレではありません。

野菜のニンジンはセリ科ですが、漢方薬で用いられるニンジンはウコギ科。

同じ「セリ目」ですが、全く別の植物です。

日本では古くから輸入品に頼っていた歴史もあり、「チョウセンニンジン」とか「高麗人参」と呼ばれてきました。

(現在は植物名:オタネニンジンと呼ばれています。江戸幕府八代将軍、徳川吉宗の政策で国産化を推奨、各藩に配られた「御種」から栽培したというのが起源らしいです)

 

 

最古の薬学書「神農本草經」を見てみますと、

 

”味甘、微寒。生山谷。

補五臓、安精神、定魂魄、止驚悸、除邪気、明目、開心益智。

久服軽身延年。”

 

・・・と、初っ端から「五臓を補う」と書いています。

後から、精神を安定させる、魂魄が安定する、悪い病気を追っ払う、、、とか書いていますけど、全て「補う」結果と考えましょう。

 

 

 

ここで、ちょっと「補法」「補藥」について補足します。

 

漢方や鍼灸の世界で「補う」というのは、外から何かを「足す」のとはちょっと違うようです。

補薬=元気を増す、と私も書いてしまいましたが、栄養を追加するというよりも、

(もちろん、そういう側面も多分にあるかと思いますが、) 

その人が持っている元気を「(ある指向性を持って)集める」というイメージが近いようです。

 

元気を補う薬なら補薬だけ飲んでりゃ、一生元気に生きていけることになってしまいますし、

「補法」の鍼や灸だけしていれば、生涯病気しないことになりますが、現実にはそんなことはありません。

 

病的な因子、たとえば食事の不養生や運動不足、ストレスやショックな出来事、あるいは外傷、または出産や流産などで、身体が大きくダメージを受け、元気が「散ってしまった」ものを特定のポイントへ、今回の人参だったら「五臓」…つまり内臓に集めて、機能回復を図るのが「補」と考えた方がよさそうです。

 

鍼で「補法」つまり「補藥」的なことをする時も、鍼をするツボに「気を集める」ということに意識を払う刺し方をします。

 

 

あくまで、人の元気の源は飲食物から得るものです。

(李氏朝鮮時代の朝鮮王朝では、「食医」が医者の最上に置かれていたらしいのですが、意味深いと思います)

 

なので天命を全うして、元気は根こそぎ空っぽ…という、ご臨終の方にいくら補薬を飲ませても、補法の鍼をしても、生き返ったりはしません(一瞬、意識を取り戻す…とかは、もしかしたらあるのかもしれないですけど…)。

 

 

ついでに書いておくと、、、、

元気を集めて元気にしてくれるんだったら、誰にでも効きそうじゃん、俺元気ないのよ~、ちょうだいちょうだい!

…というのも、NG!!

 

現代人に多い「疲れ」というのも、必ずしも「元気が散ってしまっている」「元気が減衰してしまっている」というのが原因とは限らず、

「元気が”滞って”しまって、結果、必要なところに元気が巡らずに、疲労感を覚える」というケースも多いからです。

(というか、かなり多い)

こうした人に、人参に代表される「補薬」を飲ませたり、鍼灸でいうと「補法」という元気を集める処置をすると、滞りがますます悪化してかえって病状が悪化することさえあります。

”滞り”が長期間した人は、「邪」といって、いわば病理産物を形成してしまうことも多くあるのですが、そんな方に迂闊に「補藥」を与えてしまうと、「閉門留寇」(=門を閉ざし、家に盗賊を残す)といってますます深刻な事態になるとされます。

 

 

 

ただし、「指向性を持って補う」というところがミソで、例えば上半身ばっかりに滞りがある人に、下半身に元気を集める処置をすることで、「下に引っ張り」、相対的に上半身の停滞を散らす、というテクニックはあります。

また停滞から生じた「邪」の勢いが強すぎて、「邪」と戦い元気がないような時も、一時的に「補法」を使うことがあります。

 

…大分、話がそれてしまいました。。。

この麦門冬湯における人参や甘草・粳米・大棗も、ある意味でこの指向性というのが一つカギになるんじゃないかと思います。

 

長くなったんで、次回に。m(_ _)m

 

 

(参考図書)

中医臨床のための中薬学 (東洋学術出版社)

中医臨床のための方剤学 (東洋学術出版社)

生薬単 (伊藤美千穂・北山隆・原島広至)

神農本草經解説 (森由雄)

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