さて続き。
桂枝茯苓丸の出典『金匱要略』の原文のアタマを見ました。
”婦人宿有癥病、”
もともと病理産物である瘀血(≒血の塊みたいなもん)を抱えた”癥病”のご婦人がございまして、と始まりました。
つづきです。
“婦人宿有癥病、
経断末及三月、而得漏下不止、胎動在臍上者、為癥痼害、
妊娠六月動者、前三月経水利時、胎也。
下血者、後断三月衃也。所以血不止者、其癥不去故也。当下其癥、桂枝茯苓丸主之。“
”経断末及三月、”
「経断ちて三月に及ばずして、」
=生理が止まって3ヶ月も経たぬうちに、
”而得漏下不止、”
「漏下を得て止まず、」
※漏下=子宮出血のこと。
=出血が止まらない、
”胎動在臍上者、”
「胎動臍上に在る者は、」
=胎動が臍の上に在るものは、
”為癥痼害”
「癥痼害すと為す」
=癥痼(ちょうこ)の害と呼ぶ。
もともと”癥病”、お腹に血の塊のような腫物を抱えたご婦人が、
(妊娠して)月経が停止して3か月経たないうちに、出血して止まらない、しかもお腹に胎動らしきものがある、
こんな状況だと、”癥痼の害”といって、腫物がある所へ妊娠したために問題が起こっているよ、
ということだそうです。
ほんの少し時代が下った頃に書かれた『脈經』(王叔和(3世紀))の桂枝茯苓丸の条文では、
”婦人妊娠、経断三月、而得漏下、下血四十日不止、胎欲動、在于臍上、此爲癥痼害。”
と、「妊娠して月経が止まって3か月」「出血は40日止まらない」、、、と具体的に書かれています。
妊娠3か月未満で出血が止まらないって、現代でいうところの早期流産が含まれるのかな??
何とも言えませんが、こんな早くに胎動を感じるのは胎動とは考えにくいですし、出血も止まらないなんて、やはり問題です。
(※妊娠初期に軽く出血することは、正常な妊娠でも割によくあるそうですが、ここでは「止まらない」と書いてるので、やはり病的状況と思われます。現代で、出血してなかなか止まらない時は、産婦人科の先生にみてもらいましょう。)
「癥痼」という言葉ですが、癥瘕(≒瘀血の積もったもの)の「癥」に「痼(こ)」が付いてます。
「痼」の字は、”ながやみ”といって、長らく患っている病気。固まってしまった持病、という意味があります(藤堂明保『漢和大辞典』)。
「痼疾(こしつ)」と書いて、「長い間患ってなかなか治らない病気」「こりかたまって直らないクセ」という意味もあることから、「癥瘕」が「痼」しているのだから、昨日今日ではない瘀血の停滞による病気と想像がつきます。
ここまでで、桂枝伏苓丸は
「癥病」
→「癥瘕を抱えた病」
→「癥瘕とはイライラや飲み食いが過ぎて血が滞り”瘀血”が蓄積したもの」
→さても、こやつをどうにかしてくれん、、、
というのが桂枝茯苓丸のお考えであろうか、というとこまで見えてきますね。
つづきます。m(_ _)m
(参考文献)
金匱要略解説(東洋学術出版社)
学研漢和大辞典(藤堂明保)
漢方用語大辞典(創医会学術部)
中医基本用語辞典(東洋学術出版社)
金匱要略述義(原著:多紀元堅(1795--1857))
脈經(原著:王叔和(3世紀))
すべてがわかる妊娠と出産の本(竹内正人)