さて続き。
前回は
”経断未及三月、而得漏下不止、胎動在臍上者、爲癥痼害。”
妊娠して三月経たない内に出血が止まらず、胎動みたいなのを感じるのは、積もり積もった瘀血(滞った血)が悪さをしている状態だよ、
というところをやりました。
今回は、
“婦人宿有癥病、
経断未及三月、而得漏下不止、胎動在臍上者、爲癥痼害。
妊娠六月動者、前三月経水利時、胎也。👈ココから
下血者、後断三月衃也。
所以血不止者、其癥不去故也。当下其癥、桂枝茯苓丸主之。“
いつも基礎テキストに使わせて頂いている、『金匱要略解説』(東洋学術出版社)の訳では、
妊娠六月動者、前三月経水利時、胎也。
”妊娠六月にして動するものは、前三月、経水利する時の、胎なり。”
(妊娠6か月経って胎動して、妊娠するより前の3か月間、月経が規則的に来ていたのなら、これは妊娠している。)
とされていました。
さらに、
下血者、後断三月衃也。
”下血するものは、後断えて三月の”衃(はい)”なり”
(もし懐妊前の3か月の月経がもともと正常ではなく、下血して月経が途絶えてから3か月するのに、まだ下血するのは、妊娠ではなくて「衃(はい)」である。)
と続きます。
先に書いとくと「衃」というのは、
「瘀血」(『金匱要略の研究』大塚敬節)、
または「腐凝の血」(『大漢和辞典』諸橋漸次)、
または「血が凝滞して赤黒色になった瘀血をいう」(『漢方用語大辞典』燎原)のだそう。
さっきまで
「妊娠3か月経たないうちに出血が止まらなくて、胎動みたいなのを感じるのは異常事態だよ」
と述べた後に、
「妊娠3か月前の月経が正常で、妊娠6カ月くらいで胎動を感じるのが正常な妊娠ですよ」
とノーマルな妊娠を改めて書いているのは、
はてな? そそっかしい先生が慌てて処方するのを戒めているのかな? とも思いましたが、
文献によって微妙にとらえ方が違うようです。
「妊娠六月動者、前三月経水利時、胎也、下血者、後断三月衃也。」
”月経停止後、6カ月で胎動する時、月経停止前三ヵ月間の月経が不順で異常出血があり、停止後3カ月間の月経のない時は「衃」すなわち奇胎あるいは凝血である…”(『金匱要略入門』森田幸門)
「六月動者、前三月経水利時胎也、下血者、後断三月衃也。」
”妊娠6カ月(にありそうな)胎動を感じるのは、(懐妊前の)3カ月出血していたのは、月経ではなく子宮出血だから。
この頃、既に妊娠していたわけで、前後の3か月を合わせると6カ月になるわけである。…”(『金匱要略の研究』大塚敬節)
と、調べていくと何だか分からなくなってきます(笑)
大塚敬節先生の解説だと、妊娠3カ月で出血したと思ってたのは、実は月経が止まるより3カ月前の月経が子宮出血だったんだよ、だから合わせて6カ月になるので、胎動を感じるのはあり得ることだよ。。という解釈でいいのかな??
『中医臨床のための方剤学』(神戸中医学研究会)という、現代、漢方医・鍼灸師に広く読まれている(と思う)本では、
”胎動を感じる時期以前の6カ月間の内、前半3か月が正常な月経であった場合は、妊娠(「胎」)であり、
前半3か月が不正出血があって無月経になった場合は、癥痼(「衃」)である。”
とされていました。
ただ、いずれの解釈にせよ、目的は次の条文、
所以血不止者、其癥不去故也。当下其癥、
”血止まざる所以のものは、其の癥去らざる故なり。まさに其の癥を下すべし、”
(出血が止まらないのは癥(≒瘀血)があったためであるので、これを除かないと出血は止まらない、)
そして桂枝伏苓丸、之を主(つかさど)る。
と結んでいます。
当に其の癥を下すべし、桂枝伏苓丸、これを主る。
要は「瘀血」、古く積もっている滞った血。これを下すのが桂枝伏苓丸の目的です。
原典では妊婦さんの異常出血に対して使っていたような書かれ方をしていますが、この「瘀血を下す」という効能から、後世、広く応用された方剤です。
もちろん鍼灸でも「瘀血を下す」(=活血化瘀といいます)治療があります。
より瘀血を下す、という概念を理解する上で、私達鍼灸師も漢方も勉強しないといけません。
次は、桂枝伏苓丸を構成する方剤をみてみましょう。
つづきます。