漢方と鍼灸26 桂枝伏苓丸④

前回は、桂枝茯苓丸の

 

“婦人宿有癥病、

経断未及三月、而得漏下不止、胎動在臍上者、爲癥痼害。

ココから👇

妊娠六月動者、前三月経水利時、胎也。

下血者、後断三月衃也。

所以血不止者、其癥不去故也。当下其癥、桂枝茯苓丸主之。

 

という条文を勉強しましたが、

幸いなことに先哲の御指南を頂くことが叶いまして、私の中でも大分、スッキリしたことがありました。

今回はそれを受けて、前回の補足を書きます。

 

”妊娠六月にして動く者は、

前三月経水利する時の、胎なり。

血下る者は、断ちてのち三月の衃なり。

血止まざる所以(ゆえん)のものは、

其の癥去らざる故なり。

まさに其の癥を下すべし。

桂枝伏苓丸これを主る。”

 

という条文でした。

 

私は初め、「経水利」というのを「順調な月経」と受け止め、順・不順かを間違えるな、という文面かと思っていたのですが、どうも違ったようです。

 

ここで整理しやすいように(私の勝手で)番号を振りながら、改めて桂枝伏苓丸の条文トップから見てみましょう。

 

 

① 婦人宿有癥病

“婦人、宿(もと)より癥病有り”、(もともとシコリ(≒血の塊)を抱えたご婦人がおりました)

 経断未及三月、而得漏下不止、

“経断ちて未だ三月に及ばず、しかも漏下を得て止まず”、(生理が止まって三月経たぬうちに、出血して止まりまらない)

③ 胎動在臍上者、

“胎動きて臍上に在るものは”、(胎動のようなものをヘソの上に感じるのは)

④ 爲癥痼害妊娠。

“癥痼、(妊娠を)害すると為す”。(お腹の中のシコリが悪さをしている。)

※今回は、後の条文「妊娠六月」の「妊娠」の字をこっちに繋げて読んでいます(『金匱要略講話』大塚敬節先生)

 

こっからです。

 

⑤ 六月動者、

“六月にして動くものは”、(さらに3ヵ月経って、(合計)6カ月経ち、本当に胎動を感じました)

⑥ 前三月経水利時、胎也。

“前三月、経水利する時の胎なり”。(これは②の時、出血が漏れ出てた時に、実は懐妊してたんだよ)

⑦ 下血者、後断三月衃也。

“血下る者は、断ちて三月の衃なり”。下血しているのは、②の時に言った「経断」して3ヵ月未満の時に在った「瘀血」だよ)

⑧ 所以血不止者、其癥不去故也。

”血止まざる所以のものは、其の癥去らざるが故なり”。(血が止まらないのは、この「癥」が取れてないんです)

 

そして、

⑨ 当下其癥、桂枝茯苓丸主之。

“当に其の癥を下すべし、桂枝伏苓丸、之を主る”。(桂枝伏苓丸がこれにはよろしい!)

 

ということだそうです。

 

どうやら条文のアタマから、一人の妊婦さんのことを取り上げていたようです。

 

生理が止まって三月経たぬ内に、出血した。

妊娠していたとしても、胎動を感じるのにはいくらなんでも早すぎる。

これは胎動でなく病的現象の現れとして胎動モドキを感じているのに過ぎない。

更に三月たって、今度は本当の胎動を感じた。

最初の三月の時に出血した時、生理かな? 流産かな? と心配したけど、

これは6か月前に懐妊していたんだよ、と。

それはいいんだけど、妊娠6カ月目のただいま、なお出血しているのは? これは「癥」が取れてないんですよ。

だからこの「癥」を下しましょう。

それには桂枝伏苓丸がよろしい。

 

ということですね。

 

 

妊娠中に下血して、流産かも!? と慌てて、産婦人科にいったら

「なんでもないよ♪」ということが、よくありますね。

これなんだそうです。

 

桂枝伏苓丸は本によっては筋腫やチョコレート嚢腫など、まさに「血の塊」を抱えた方、御用達なイメージで書かれたりもしますが、こうした筋腫・嚢腫が無くても、東洋医学でいう「瘀血」を抱えた方というのはいらっしゃいます。

 

こうした方に桂枝伏苓丸を「安胎」のために使われることがあるんだそうです。

 

 

 

いやぁ、勉強になりましたm(_ _)m

不勉強を深く恥じる次第です。

 

 

ただ、この⑤~⑧の条文(まさに前回のところで、ごちゃごちゃした所)。

 

日本の漢方医学において超有名人な大塚敬節先生の著書によれば、「後人の注釈」なんだとか。

 

 

「これでは意味がよくわからないので、もっと何かあったのが脱けているのだろうという説が専らです。」

(『金匱要略講話』大塚敬節先生)

 

…って漢方界の重鎮の先生がよくわからないって言ってるものを、僕みたいな場末の鍼灸師が分かるわけないじゃないですか…(´;ω;`)

 

 

なので、大事なのは①~④を踏まえての⑨!

 

 

(ま)さに其の癥を下すべし、

 

 

 

次回こそ、構成生薬を見てみます。

 

“服法甚緩、以深固之邪、止堪漸以磨之也”

服法甚だ緩やか、深固の邪、ただ漸(だんだん)と以て之れを磨(減ずる)に堪(すぐれ)るを以て也

(『金匱鉤元』朱震亭)

 

・・・な方だそうです。

 

 

御指南下さいました先生に改めて御礼申し上げます。

 

(参考文献)

金匱要略講話 大塚敬節

金匱要略述義 多紀元堅

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