遅くなっていますが、続きを書いていきます。
前回まで、桂枝茯苓丸の出典を読んできましたが、今回は構成する生薬ついて。
桂枝茯苓丸を構成するのは、
桂枝 (ケイシ)
伏苓 (ブクリョウ)
牡丹皮 (ボタンピ)
桃仁 (トウニン)
赤芍 (セキシャク)
以上、5つ。
それぞれ同量を、
右五味、末之、煉蜜和丸如兎屎大、
(右五味、これを末とし、煉蜜に和して丸ずること兎屎大の如くし、)
煉蜜=ハチミツを弱火であぶって、水分を減らしてから練ったもの…で丸めるんだそうです。
ウサギのフン位の大きさに。。
ここで、桃仁(トウニン)という生薬が登場します。
最古の薬学書『神農本草経』では「桃核」の名前で登場しますが、ちょうど先日「桃の節句」が終わりましたね。
桃仁は「桃のタネ」のことです。
(注意:桃のタネはそのまんま食すると有毒です! 『神農本草経』でも常用を避けたい品を収めたとされる「巻下」に登場します。生薬に使われる桃仁は、キチンと炮製し、解毒加工されたものです)
『神農本草経』では、
桃核、味苦平。生川谷。治瘀血血閉瘕、邪氣。殺小蟲。
桃華、殺注悪鬼、令人好色。
桃梟、殺注悪鬼。
桃毛、下血瘕寒熱積聚、無子。
桃蠧、殺鬼辟不祥。
・・・と、物騒な漢字がぞろぞろ登場しますが、大事なのは 治瘀血血閉瘕 というところ。
これまでも桂枝茯苓丸は「瘀血」をどうにかする薬という流れでしたが、まさにこの桃仁は破瘀行血(はおこうけつ)作用といって「瘀血」を下す作用を持つ生薬です。
桃仁でまず大事なのは、これ。
ついでに書いてくと、
「桃華」は桃の花のこと。
「桃梟」はトウキョウと読み、冬を過ぎても枝から落ちない桃の果実のこと。(梟:フクロウのこと。)
「桃毛」は桃の果実表面の毛のことで、これも薬用になるらしい。
「桃蠧」はトウトと読みますが、おそらく桃蠧虫(トウトチュウ)という桃の木を食べる虫のことだと思います。
(時代が下って明代『本草綱目』には桃蠧虫の名前で収録されている)
「鬼」をなんとかする、という文が出てきますが、「悪鬼」という文言には一応「疾疫」という意味もありますが、「鬼」という文字自体には「死人のたましい」という意味の他に、「人を賊害する”陰の気”」という意味もあるそうで、病気の中でも霊的な不調(つまり精神の不調??)をきたすものを治すという意味もあるのかもしれません。
「血」を主る臓器は「心」の臓であり(注:あくまで「東洋医学における」心臓。ですよ)、
瘀血の不調の種類によっては精神を病むケースもあるので、そうした病気を治した経験が桃仁の条文に反映されているのでしょうか。
(自然界の気象変動によって起こる病気には「風・寒・暑・湿」などがありますが、『神農本草経』の他の項目ではこうした文言は既に使われており、病気を全部「悪鬼」のせいにしていたとは考えにくい。もっとも、道教や神仙思想の影響も受けている著書らしいので、この辺り、そうした考え方も入っているのかも?)
ちなみに「桃の節句」で桃の花を飾るのも「魔除け」の力があるからなんだそうですが、女の子の無病息災を願うお祭りに「血」がらみの病気に使われる桃仁の木を飾るあたりに、伝統医学が古くから東アジアの生活文化に溶け込んでいるように感じたのは私の勝手な感想(^^)
えらく脇道に逸れましたが、とりあえず桃仁は「血を下す」。ということで。
つづいて、牡丹皮(ボタンピ)。
まだつづきます。