漢方と鍼灸33 当帰芍薬散に学ぶ②

前回から相当に時間が経ってしまいましたが、今年からまた書いてみます。

 

 

 

前回、当帰芍薬散に含まれる

「当帰」と

「白芍(芍藥)」は、

“補血柔肝”することで“肝気の暴走を抑え”る

と書きましたが、

 

これだけだと「なんで?」なので、

 

今回は脱線しますが、ちょうど「おたより」でも少し触れた所なので、 

「肝」の“気”と“血”の関係について少し。

 

漢方・鍼灸の世界で言うところの「肝の臓」とは、西洋医学でいわれる「肝臓(Liver)」とは別物と考えます

(被る所もあるとも語る向きもあるけど、いったん別物と考えた方が分かりやすいと思う)

 

その「肝」。

普段は何をしているのかというと、

 

「気=生命活動するためのエネルギー」

 &

「血=全身を栄養する物質」

 &

「津液(しんえき)=血を除く、体液」

 

これらが全身を巡り、各器官で働く作用

~特に「気」に関しての作用を「気機」といいます~

 

これが「のびやかに」行なわれるように支えています。

 

注意したいのは、

気を全身に送る主宰は「肺」であり、

 

血を全身に送る主宰は「心」であり、

 

津液を全身に送る主宰は「腎」 + 間接的に「心」と「肝」である、

ということ。

 

送る、という事象自体は「気の“推動”作用」と呼ばれ、おのおの「肺気」「心気」の推動作用によって、まず全身へ送られます。

※津液は「腎」と「肺」が重要な働きをしますが、もう長くなるので割愛。。。

 

気と血を送る主宰は「肺」と「心」ですが、この二臓だけでは全身満遍なく巡る、というわけにはいきません。

 

ここで「肝」の機能が出てきます。

肺や心の推動だけでは送られないところへ、押し広げるように気血を届け、文字通り満遍なく巡らせる機能があり、

これを肝の「疏泄」(そせつ)と呼びます。

 

上記の肺や心が統括する気血循環だけでなく、他の臓腑自体の機能をフォローするのも疏泄機能によってなされるので、その影響は多岐にわたるのですが、ややこしくなるのでまたの機会に。

 

 

こっからさらに脱線して、この「疏」の字について。

現代中医学の基礎的な意味では「疎通」と言われ、白川静先生著『字統』でも概ね同じような意味で捉えていますが、

 

諸橋漸次先生の『大漢和辞典』では、

 

「疋=足」 + 「子」の古語「巛+子」

 

・・・で、出来た漢字だそうで、

「子供が生まれようとして、胞衣が破れて足が動く意から、疎通の義」になり、

つくりは「突然の出現」

へんは「進行」を意味し、合わせて「通達」の意味になるんだそう。

 

これが原義とすると、ちとグロいのですが、こうした漢字を使うあたり、疏泄機能とは強い作用であることを伝えようとしているのではないでしょうか。

 

ちなみに「泄」の方は、 

同じく現代中医学の基礎では、「昇発」「宣泄」あるいは「発散」という意味で捉えていますが、

こちらの字は、「泆」(イツ)という「水がゆれあふれる」という意味の字に通じるんだそうで、

「あふれる」「もれる」という意味の他に、「おこる・発する・散らす」という意味合いでも使われるのだそう。

 

総じて動きのベクトルが「外向け」ですね。

 

「疏泄」の作用とは、外に向かって強い力を発するらしいことがわかります。

 

こうした作用を象徴するように、「肝」は五行説において「木」の性質を持つとされます。

 

木に限らず草木全般の「さま」を象徴しているとみてよいでしょう。

 

重力に逆らい、空に向かって枝葉を伸ばしていく樹木のように…

ツルハシも跳ね返す地面をも貫いて根を張り巡らす草木のように…

 

押し広げる作用を持っている、ということです。

 

 それほどまでに強力な作用を「肝」は持っていると認識した上で。

こうしたアクティブな作用は「陽」の作用とされます。

「肝」の「陽氣」の作用です。

 

先ほども書きましたが、「強力な作用」なので、ほったらかしにしておいたり、つつがなくその作用がめぐっていなかったら暴走します。

「陽氣」の作用を制御する、逆のベクトルの持つエネルギーが必要です。

「肝」の「陽気」と逆のエネルギー。

つまりそれが「肝」の「陰」です。

 

古代の人々は解剖をして肝臓を取り出したとき、血の色をした肝臓を見て、「肝臓は血液を貯めているのだ」と考えたらしく、

東洋医学では「肝蔵血」つまり、「肝」は「血」をプールしておく場所と捉えます。

このプールされた「血」が「肝の陰」に当たり、「肝の陽気」(=「肝気」と略して呼びます)が暴走するのを防いでくれます。

 

 

 

・・・思いっきり脱線しましたが、ここで冒頭に戻りましょう。

 

当帰芍薬散に含まれる

「当帰」と

「白芍(芍藥)」は、

「補血柔肝」する。

=肝の陰が増すことで

“肝気の暴走を抑え”るわけですね。

 

ここへ「活血・疏肝理気」の「川芎」が加わることで、

血を補いつつ、血を滞らせないということができるんだそう。

 

「芎歸芍藥、足以和血舒肝」・・・

(=川芎・当帰・芍藥、以って血を和し肝を舒【=おだやかに】するに足る・・・朱肱著『南陽?活人書』)

という条文が、僕的にはわかりやすかったかな。

 

調べていくうちに、中国漢方(中医学)と日本漢方で、芍藥の捉え方が微妙に違っているようなのですが、もーややこしくなるから、ここでは中医学の考え方を基準にしておきます。

 

 

血と肝の調整をしたところで、

残りの 茯苓・白朮・澤瀉 で、水(津液)と脾の調整をします。

 

これはつづきで。

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