漢方と鍼灸34 当帰芍薬散に学ぶ③

べらぼうに更新が遅れてしまいました…。

 

実は公私共にますます忙しくなってしまいまして(;'∀')

 

当帰芍薬散については、今回を一区切りにしたいと思います。

 

 

当帰芍薬散を構成するのは、

 

当帰(トウキ)

白芍(ビャクシャク)※原典では「芍藥」

茯苓(ブクリョウ)

白朮(ビャクジュツ)※原典では「朮」

沢瀉(タクシャ)

川芎(センキュウ)

 

この内、

当帰・白芍・川芎について、 

当帰と白芍で「肝血」を補い、結果として暴走しやすい「肝」の陽気を抑える。

ただ補うだけでなく、川芎によって、 肝血を補いしかも滞らせない働きをする、

というとこでお話を終わっていました。

 

今回は

伏苓・澤瀉・白朮

 

桂枝伏苓丸のお話しにも出てきました茯苓(ブクリョウ)。

「滲湿利水」し

「茯苓は味甘平、能く気を導き水を行らす」(『古方薬議』)んでしたね。

 

澤瀉(タクシャ)は『神農本草経』では

 「味甘寒、生池澤。

治風寒湿痹乳難。

消水、養五臓、益氣力、肥健。

久服耳目聡明、不飢延年軽身、面生光、能行水上。」

・・・と、やはり「水」を動かすらしいことを書いています。

 

吉益東洞先生の「藥徴」でも

「小便不利を主治す。故に支飲・冒眩を治し、吐・渇・涎沫を兼治す。」

とありますが、「支飲」というのは「飲(余分な水)が支(つか)える」ということで、

みぞおちの辺りに水が支えているような状態を治すということ。

 

当帰芍薬散の使われ方のひとつに、

「子嗽なる者は、胎気成長し、水心下に停るに因って咳を為すなり。当帰芍薬散に宜し」(『先哲医話』浅田宗伯)

という使われ方もされていたそうですから、この辺、澤瀉が絡んできそうですね。

(子嗽っていうのは、妊娠中に起こる喘息みたいなセキのこと)

 

 

白朮(びゃくじゅつ)も、やはり『藥徴』の中で、

「利水を主る故に小便不利、自利、浮腫、支飲冒眩、失精下痢を治し、沈重疼痛、骨節疼痛、呕渇、喜唾を兼治す。」

とありますから、同じく水を動かすわけですが、

白朮の作用というのが、「補中」といって「脾」の陽気を高めて結果として水を捌くんだって。

 

日本のエキス剤では「蒼朮(そうじゅつ)」を使っていることが多いらしいです。

現代に入ってからなのかな~と思ってましたが、江戸期の医師:稲葉文礼(?--1805)先生の「腹証奇覧」では、ちゃんと「唐蒼朮」と丁寧に書かれていました。

「蒼朮」は、燥湿健脾、まず余分な水を乾かして結果として「脾」を元気づける、というように、白朮と作用機序が違います。

 

『神農本草経』では、「朮」としか記載がなく、白・蒼の区別はされていないのですが、

「味苦温、生山谷。

治風寒濕痹死肌、痙、疽。

止汗除熱、消食。作煎餌。

久服軽身延年不飢。」

とあり、

 

蒼朮は「味苦温」、白朮は「味甘温・苦」らしいので(*『中医臨床のための中薬学』)

厳密には蒼朮のことを指しているのかもしれませんね。

(蒼・白の区別を初めてしたのは明代・李時珍先生の『本草綱目』が最初とされます) 

 

鍼灸で「当帰芍薬散の証っぽいな…」という患者さんが来た時に、

蒼朮のように作用させるか、白朮のように作用させるか・・・

そんなこと考えながらツボを選ぶと、効き方が違ってきそうです。 

 

「当帰芍薬散を飲んで調子が良かったよ(悪かったよ)」と患者さんが教えてくれたら、

ぜひとも組成表を見せて欲しいです(笑)

 

 

さて、いずれにしても当帰芍薬散は、

当帰・白芍・川芎:で、血を補いながら肝の陽気を治める。

伏苓・澤瀉・白朮:で、脾を(結果として)高めながら、水を捌く。

 

大きく分けてこの二つの作用が大事のようです。

『勿誤薬室「方函」「口訣」』(浅田宗伯著)の中で、「和血ニ利水ヲ兼ネタル方」と綺麗にまとめて記されていますが、

肝血不足で肝陽が昂ぶって、脾が弱って水はけがよろしくなくなっている、という方なんて、高温多湿の日本なら結構な数いらっしゃると思います。

それだけに、古くからいろんな病気に応用されてきているので、現代でも全く違った病気なのに当帰芍薬散を出された、ということに出くわすことも多そうです。

 

日本漢方を偉人・吉益東洞先生の御子息、吉益南涯(1750--1813)先生が記された『続建殊録』に、腹痛に苦しんで鍼でも薬でもなんでも試したが、まるで効き目がなく、方々の医者を7年も訪ね歩いたという患者を、この薬を使い、3日で治したという逸話が載っているんだそう。

(有名な逸話なんでしょうね。引用している文献が結構あります。)

 

もちろん、吉益南涯先生の診察の鋭さがあっての神効です。

猫も杓子も当帰芍薬散を飲めばなんでも治るわけでは、もちろんありません。

いろいろ病院を訪ねて回ったが、良くならないので漢方薬をお試しになりたい、という時は、くれぐれも専門の先生に診てもらってから服用しましょう。

 

一方で、今回、当帰芍薬散について調べているうちに、腹中㽲痛は無かったけど、本方と附子剤を兼用して、3年半もかけて不妊治療に成功した先生の症例などもありました。

 

漢方の臨床と鍼灸の臨床では、治療の間隔などでも違いはありましょうが、「こうだ!」と確信したら、それ一本を信じて治療する信念の大切さを教わった気がします。

 

 

 

 

さて、ちょっと消化不良ですが、いったん一区切りとします。

 

私事なんですが、最近、いろいろと忙しくなってきまして、一般の皆様あてのコンテンツは、

「清空院だより」にしばらく注力させて頂こうと思います。

 

折に触れて、何か書きたくなったら(というか、自分でまとめてみたくなったら)、またブログに書いてみようと思います。

 

 

(参考文献)

中医臨床のための中薬学(東洋学術出版社)

中医臨床のための方剤学(東洋学術出版社)

金匱要略解説(東洋学術出版社)

神農本草經解説(森由雄先生)

金匱要略講和(大塚敬節先生)

金匱要略入門(森田幸門先生)

和訓 類聚方講義・重校藥徴(吉益東洞先生原著・尾台榕堂先生校注・西山英雄先生著)

勿誤薬室「方函」「口訣」(浅田宗伯先生原著・長谷川弥人著)

漢方用語大辞典(燎原)

新古方藥嚢(荒木性次先生)

方術説話(荒木性次先生)

腹証奇覧(稲葉文礼先生)

金匱要略述義(多紀元堅先生)

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