随分と時間が掛かっちゃいましたが、とりあえず桂枝茯苓丸についての勉強は、今回で一区切りにします。
方剤を構成する生薬から、一つ一つその意味を調べていくのは以前からやってみたかったことなので、やってる私は楽しいのですが、ザックリでいいよ、もっときれいにまとめてよ、という方からは不評をもらいそうですね(^_^;)ホントすんません。
方剤で何をしようとしているのかを調べるのが、鍼治療にも生きてくるので、ついつい、、、
方剤一つ、生薬一つとっても、二千年来、歴代の医家達が喧々諤々の論争をしながらその論争に耐えて生き残ってきたのが漢方であり、また鍼灸も然りです。
調べていくと本当に深い世界なので、あくまで私が書いているのは「ほんのサワリ」程度と思ってください。
ただ、一般向けの雑誌やパンフなどの漢方・東洋医学などのお話しでは「ちょっと物足りない」
だけど「専門書はハードルが高い」という方には読みやすいといいなぁ、などと考えながら書いています。
上手く本質からは外れないように書けているといいのですが…。
さて、桂枝茯苓丸を構成する方剤の最後のお話しです。
「赤芍」(セキシャク)
本ブログ⑥で書いた「牡丹皮」と同じく、清熱涼血の作用を持ちます。
実は牡丹皮もそうした側面があるそうなんですが、赤芍は「血」の中でも「肝血」(肝臓が納めている血)に、より作用しやすい性質があり、「肝血」が熱を帯びる病気などで清肝泄火の作用でもって、他の方剤で働いたりしています。
※しつこく書きますが、肝臓とは病院でいう肝臓(Liver)ではありません。
さらに牡丹皮同様、活血散瘀にも働くので、まさしく桂枝茯苓丸の主たる目的である「瘀血」をなんとかするのに一役買ってくれます。
とりあえず、桂枝茯苓丸の中での「赤芍」については、こんなところ。
こっからちょっと複雑な話。
・・・赤芍って書いちゃいましたけど、
原文『金匱要略』では赤芍は「芍藥(シャクヤク)」となっていて、
最古の薬学書『神農本草経』でも「芍藥」しか登場しません。
シャクヤクってのは
「立てば芍藥、座れば牡丹、歩く姿は百合の花・・・」の芍藥です。
赤って付いてるってことは、対する色があるわけで、もうひとつは「白芍」。
こちらは「補血」に働きます。
単純に言いきってはいけなさそうなのですが、赤芍と逆ですね…。
陶弘景(452-536)著『本草経集注』で初めて「赤白」の区別がされていますが、使い分けはしてないそう。
(今出白山、将山、茅山最好、白而長大、余處亦有而多赤、赤者小利。)
赤白の使い分けがされるのは、宋代『図経本草』が登場してからなんだって。
赤白の分け方は、、、
根っこの色の違いで分けるのだ、とか
芍藥の根っこを丸ごと使うか、皮を取り除いて乾燥させるかで使い分けるのだ、とか
山野に自生しているのと、平野で栽培しているのとで使い分けるのだ、とか
そもそも種類が微妙に違って、それで使い分けるのだ、とか
(シャクヤクの他に、ヤマシャクヤクという品種もある)
…多分、調べてったら泥沼になりそうな気がするので…(;゚Д゚)
同じ芍藥でも区別がされてるんだ、という位に認識しておきましょう。
ついでに日本漢方の文献の中でも、あんまり芍藥を赤白にキッチリ分けるようなことはあまりしていないみたいですね。
(今回、桂枝茯苓丸に入っているのは「赤芍」というのは中国漢方(=現代中医学)に則り書いています)
どうも、日本の風土が芍藥を分ける必要性を無くしたっぽいんですが、この辺はもう長くなるので割愛しておきます。
とりあえず日本と中国では、ルーツが同じ医学でも、土地も人の習慣も違うのだから、変化するものと考えておきましょう。
赤白どう分けるか、を調べるよりどんな考え方で芍藥を使っているかを調べた方が勉強になりそうなので、今回はそっちを優先。
まず原典中の原典、『神農本草経』から。
芍藥、味苦平。生川谷。案芍藥苦酸順血通脈、無所不至、真
治邪気腹痛。
除血痺。
破堅積寒熱疝瘕、止痛、利小便、益気。
血痺を除く。
「血」の問題ですね。
『漢方用語大辞典』によると、「気血の虚弱による痹証。…身体局部の麻痺や疼痛など…。」とあります。
局所的な現象で見れば「気血が足りなくて、マヒや痛みを起こしている」状態のことで、この考え方は『金匱要略』の
「血痺虚労病篇」に依る考え方のようですね。
同篇に記される黄耆桂枝五物湯は、桂枝湯(桂枝・芍藥・甘草・大棗・生姜)から、甘草(カンゾウ)が抜けて、黄耆(オウギ)が入った構成ですが、ここにも芍藥は入っています。
堅積、、、固く固定した腹部腫瘤らしいけど(『神農本草経解説』)、気血が古く滞ったものでしょう。
「堅積寒熱」と書いているのは、「冷えでも熱でも、病的なものが古く滞ったもの」ということかな?
それと「疝瘕」(せんか)を破る。
「癥瘕」(ちょうか)は
「お腹の中で腫れたり痛んだりする病証で、痛み一定しないのが瘕(か)」
と本ブログ①でも書きました。
では、この「疝瘕」ってなんでしょう?
『漢方用語大辞典』で「疝瘕」を引くと、
「風邪(ふうじゃ)が熱と化して下焦(下半身)に伝わり、湿と相結しておこるもので、小腹が熱痛し、尿道より白色粘液の流出がある。前立腺炎に類似している。」と書かれており、
これは『黄帝内経・素問』玉機真蔵論(19)の、
病名曰疝瘕。少腹寃熱而痛、出白。一名曰蠱。
から発展した解釈のようです。
「瘕」の字義は、「ノドの病」「腹の病」もっと言うなら、「女性の腹にできるしこり」なんだそう。
最古の字典『説文解字』では、「瘕、女病也」とまで言いきってるんだって。
(『大漢和辞典』諸橋漸次)
ここまで見ていくと、主に腹で古く固まったもの、それも「血」がらみのもの、があって苦しんでいるものを芍藥が助けてくれる、という感じですね。
時代が下って『重校薬徴』(吉益東洞先生の著作を尾台榕堂(1799-1870)先生が整理された本)の中では、
「(芍藥)は結実して拘攣するを主治す。故に腹満、腹痛、頭痛、身体疼痛、不仁を治し、下痢、煩悸、血証、癰膿を兼治す。」
とあります。
これについて荒木性次先生(1896-1973)著『新古方薬嚢』では、
「結実とは凝りのこと、、、拘攣とは引かれ引きつらるるを謂ふ、、、芍藥はよくたるみを引きしめ痛みを除くの効あり、結実も拘攣も弛みより来るものと見るべし」と記されていました。
随分前のブログで「桂枝湯」について書いた時にチラッと書いてましたね。
芍藥は、陰の気を収斂(ぎゅっと固める)させる作用があると書きました。
血と断定するより、芍藥が働きかけるのは血を含む「営陰」のエリア、と考えた方が良さそう。
血熱を冷ますにせよ、血を下すにせよ、血を補うにせよ、まず「収斂させる」のが芍藥らしい。
芍藥は、桂枝湯にはもちろんのこと、病院などでもお見掛けする「芍薬甘草湯」「当帰芍薬散」などにも入っていて、現代でも多用される生薬ですので、また詳しく調べていきたいですね。
いやはや、芍藥について調べてくうちに「営血」を意識した鍼の刺し方について思うところが増えて、ついつい遅くなってしまいました。申し訳ないですm(_ _)m
桂枝茯苓丸について書いていくうちに、またメジャーどころの「当帰芍薬散」が出てきました。
これも出典は『金匱要略』それも同じ篇(婦人妊娠病脈証弁治第二十)です。
せっかくなので、次回はこの「当帰芍薬散」について勉強してみましょう。
とりあえず、桂枝茯苓丸は一休み。
(参考文献)
金匱要略解説(東洋学術出版社)
中医臨床のための方剤学(東洋学術出版社)
中医臨床のための中薬学(東洋学術出版社)
現代語訳 黄帝内経素問(東洋学術出版社)
意釈・黄帝内経運気(小曾戸丈夫・浜田善利両先生)
中医基本用語大辞典(東洋学術出版社)
漢方用語大辞典(燎原)
神農本草經解説(森由雄先生)
中国基本中成薬(人民衛生出版社)
図説漢方処方の構成と適用(森雄材先生)
金匱要略入門(森田幸門先生)
金匱要略講話・金匱要略の研究(大塚敬節先生)
漢方処方応用(矢数道明先生)
和訓 類聚方広義・重校薬徴(西山英雄先生)
新古方薬嚢(荒木性次先生)
大漢和辞典(諸橋漸次先生)
金匱要略朮義(原著:多紀元堅・訓注:三好史郎先生 ※公開URL http://shoukanronkouchu.com/index.html)
※公開頂いている文献を基に勉強させて頂きました。素晴らしいお仕事に圧倒されます。この場を借りて御礼申し上げます。